Homare's Diary

組織人事コンサルタントの徒然日記です

最上のものは似合うもの

『人には似合っているものってあるのよね。学校もそう。今まで見てきた生徒もそうだったから…背中を見ていると何となく分かるわ』

 


秋口を迎えた予備校の職員室。僕が第一志望を伝えると、先生は少し驚いた表情を見せながらも、僕にそう言ってきた。

 


国立理系から私立理系、果ては浪人での文系コンバート。国語だけが、偏差値70を超えるも文系として勉強してこなかった社会は50台。英語に至っては40台。当初は惨憺たる状況だった成績も、同世代と一切関わりも持たず口も利かずに勤しんだ甲斐あり、秋にもなるとようやくまともになってきた。

 


通常であればW大かK大を何とか目指すというところ。でも、僕はなぜか気持ちをそそられなかった。中高時代のように、こじんまりとして環境のいいキャンパスで大学生活を送りたかった。誰もが行きたがるところには行く気が失せる…という持ち前の捻くれたところもあったのだろう。

 


果たして、僕は秋口の予備校の職員室で、第一志望だと告げた大学に行くことになった。不思議なことに僕のために作られたかのように、試験問題も相性が良かった。世間で言うところのいい学校はもっとあるけど、僕にとっては最上の学校だった。

 


振り返ってみると会社も同じ。自分に似合ったところにいるのが一番良い。きっと、新しい所も今の自分には似合っているのだろう。

 


今も思う。予備校であれば、上位校の合格実績を求めたがるもの。でも、あの時の僕の担任の先生は、それを求めなかった。むしろ、あなたに似合ったところが良いのだと背中を押してくれた。いい先生だったな…と。

昼休みの憂鬱

めくるめく幸せにふと感じる不安。陽だまりのキャンパスを歩く自分だけが、どことなく陰鬱な気持ちを抱えている。

 

情景と揺れる心のコントラストが見事に映し出された歌詞。紛いもない幸せな状態だからこそ感じる微妙な心理。こういう心をきれいに掬い取った歌詞を書けるってすごいね。これは、女性でないと書けない。曲とアレンジもとてもマッチしていて冒頭から世界に引き込んでしまう。

 

こぼれんばかりの笑顔を振りまいて、陽気な歌を歌うのではなく。影を抱えた内省的な歌をアイドルが歌うコントラストがまたいいのです。

 

作詞家の小倉めぐみさんは、SMAPにも多くの歌詞を提供していますが、来生たかおさんが曲をつけた『楽園のDoor』も素晴らしいですよね。

 


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セーラー万年筆の実力

昨年の3月に購入したレフティ専用のセーラー万年筆。期待をして1年間使ってみたのですがどうも使い勝手がしっくりこない。太字を選んだのに線が細く、心なしか引っかかりもある。TWISBI万年筆の太字の方が圧倒的に書きやすかったりする。

 


2万もしたのに半額のTWISBIに軍配が上がるなんてあるまじき。保証期間中でもあるので修理に出すことにしました。

 


万年筆を買ったネットショップは愛媛県のショップ。送付が面倒なので、セーラーに直接持って行こうと思い電話をすると直接の受付はしていないのだとか。代わりに丸善で取り次ぎをしてくれるというので、家から近い日本橋丸善に修理依頼。

 


かつて錦糸町のすすけたビルに東京本店を構えたセーラーは、創業地の呉に本社機能を移し、虎ノ門に支社を置いているのだが、ここはサポート受付をしていないのだそう。

 


2ヶ月は修理にかかると言われたのだが、3週間で修理は完了とのこと。なんでも、ニブ、コンバーター、首軸を交換したとのこと。メインパーツ全交換といっていい。書き味は、前と全然違う滑らかさ。こいつを求めていたわけです。これなら、一生もので使えそうです。しかし、最初のはいったいどういう造りだったんだろうね…

 


セーラー万年筆は、経営不振からプラスグループの傘下になり経営再建中。老朽化した工場設備を一新し、海外でも好評な万年筆に経営資源を集中させていく方針らしい。これは正しい方向性だと思います。廉価なボールペンなど作っても儲けは少ないしね。とはいえ、2021年の営業利益率はわずか2%。パイロットの営業利益率が22%なのでその成績の差は歴然としているのです。

 


日本の文房具はデザイン、性能ともに良いので外国でも人気。セーラーもきちんとした経営をして頑張ってほしいものです。

啖呵売りの真髄

セリングのプレゼンテーションは、リズムと熱感、相手を射貫く言葉を交えた口上に要諦がある。その本質は相手が人間である以上さほど変わっていません。

 


このことが分かっていない人は、緻密な企画書を作り上げ、それを事細かに説明すれば良いと考え、ことごとく玉砕するという愚を繰り返します。

 


セリングにおいては、ロジックも然る事ながら、相手の共感やハラオチをさせることが全てを正しく伝える事よりも勝るからです。

 


男はつらいよ』の車寅次郎が露天で行っていた啖呵売。どうでもいい商材をその気にさせて売っていく稼業です。寅さんの強みは、リズムのいい口上と買い手との絶妙な駆け引き。今や露天の啖呵売りは見ることもなくなりましたが、現代の名啖呵売りと言えばジャパネットたかた高田明さんの口上でしょう。

 


高田さんの口上は、なにせリズムがいい。そしてあの甲高い声が良い。正直、後任の方は全く物足りません。声がダメだね。リズムは寅さんや落語を見て研究してほしいものですね。

ショートトリップ

マスクをして外出していたことから、この数年は風邪らしきものをひいたことが無かったのですが、日曜にやや喉の調子が悪いなという自覚があり。それは独りで車に乗っていたときに声を張り上げ歌ったせいだとばかりに思っていたのですが。ほっておいても良くならず、火曜日の朝は唾を飲み込む際に喉が痛いので、久しぶりに内科の門をくぐったのです。


だいたい、僕は喉からやられるケースが多く。様子を見ているとその内に引かずに熱が出るので、初動がポイントで我慢はしない。とはいえ、会社を休むような風邪や病気は社会人になってからはない。(週末にひいてだいたい治る)無事是名馬ともいうので、僕は頭は多少悪くても体の弱い人に比べたら名馬なんだ・・と思ってます。


抗生剤と漢方、頓服を処方してもらい飲むこと3日。熱は最初から出ることも無く、3日目となると抜けていく感じがあり、今日はほぼ完調という感じなのですが。初期の熱はないものの体がぼおっと重く、眠りが深く取れない感覚は、忘れていた健康な体の有り難みを久しぶりに実感させてくれます。

 

そして、谷に落ちて元に戻っていくという感覚は、小さな旅でもあるということも。思い起こすと、学生時代に死線を彷徨った闘病経験は、海外留学や長期旅行などをしたこともない僕において、貴重な旅の経験でもあったわけで。エピソードとして話した就職面接は、ほぼ通過でした。

 

今にして思うと、それは価値観やモノの考え方に大きな変化をもたらすトランジションの出来事だったからなのだと思うのです。

21年目のアクシデント

鎌倉浄妙寺の境内を入り、奥の山道をほどなく登った場所にある古い洋風の館。スコティッシュガーデンを擁する石窯ガーデンテラスを訪れたのは、日曜の夕方4時前のこと。


閉店にほどない時間ともあり客もまばら。僕たち家族4人は、プリン、アイス、スコーン、ブラウニーと飲み物を注文した。たどたどしく注文を繰り返すウェイター。シンプルな注文なのに、何度も聞き返してくることをみるとどうも新人らしい。紅茶を配膳する際の手がカタカタと震えている。


別のボウイがラストオーダーになることを知らせに来た。注文は済んでいるので、その旨を告げた。飲み物は全てサーブされ、プリンとアイスが子供達に。だが、僕が頼んだスコーンと妻が頼んだブラウニーは、一向に来る気配がない。気がつくと時刻は16時25分。もはやどうもおかしい。店員に告げると、奥であたふたとしている・・


『ラストオーダーが終わってしまったので、スコーンとブラウニーはお出しできません。なぜなら、オーブンの火を落としてしまったので・・』

え、え・・・
「注文は済んでいて、その証拠にスコーンのジャムとバターだけが出されているのですよ」僕らの注文を聞いた店員は定刻になり帰ってしまい、オーダーが接続されないまま宙に浮いたのが原因らしい。

しばらくすると、上品な叔母様が出てきた。ここのオーナーらしい。とにかく恐縮して謝ることしきり。代わりにプリンは如何ですか?と聞かれたのだけど、紅茶が飲み終わったタイミングでプリンという気分でもなく。もはや、別に飲み物だけでいいのですよ・・と。

『ここは、100年の邸宅でお店は21年やってきました。こんなことは初めて。何てことなのでしょう。本当に申し訳ない・・そんなにニコニコされてしまうとこちらとしてもなんと言っていいやら・・』


お詫びを何度もするものだから、僕らも何てことだという気持ちなど直ぐに消え去り、恐縮することしきり。しょうがないよね・・あの新米定員だったら


『これを持って行ってくださらない。本当にごめんなさいね・・』
彼女から渡された手提げ紙袋には、スコーンが8つ。そしてフランス製の高級ジャム。そして、レジに行くと『今日はもうレジは閉めてしまったの。これでお気を悪くしないでね・・』

マスターは帰る僕らを、ずっと見送ってくれていた。お代ももらわず、いっぱいの手土産を渡して返すなんて。ここまで気品と誇りのある対応は、普通の育ちの人において出来るものではないと感心しきり。

 

偶然かもしれないけど、石窯ガーデンテラスは僕の社会人デビューイヤーと同じなのですよね。それでいて、ミスが初めてだなんて・・僕なんてそんなこと数え切れないほどしてきたよ・・

1本のペンを見る目

万年筆は数本を使い分けているのですが、ボールペンは長らく1本のものを愛用していました。ロットリングのエグゼクティブマルチというシャープペンシルも付いた4in1のものです。購入したのは2003年ですからかれこれ20年使っていることになります。適度に高級感もあり、重くもなく、メカニカルも堅牢。

 


マルチペンは、Lamyやパイロット、パーカーなど様々なメーカーが出していますが、浮気もせずにこれ一本。レフィルをジェットストリームにすれば無敵です。

 


ドイツ製ロットリングは、製図用のシャープペンやボールペンが主力商品でビジネスユースのラインナップは数少ない。マルチペンはロットリングにおいては、珍しいラインナップとも言えます。

 


多分、そうしたユニークな位置づけだったこともあり、マルチペンシリーズは2008年に廃盤になってしまいます。もう一本買っておけばと思ったときには時すでに遅し。その後に根強い復刻の要望があり、マルチペンシリーズは一部復活をしたのですが、エグゼクティブマルチは復刻せず。

 


幸いながら大きな塗装のはげもなく、メカニカルの故障もなく使い続けてこれました。一方で新品のエグゼクティブマルチをヤフオクやメルカリで購入できる機会もずっと伺っていました。だいたいが状態が良くないか、いいものはえらく高い。

 


先日、メルカリでデッドストックの未使用品が売りに出されているのを目にし、値段もそこまで高くなかったので即買い…この機に新品を手に入れられるとは…

 


さて、商品が手許に届き同じペンを2本も持っていても仕方がないので、古い方は欲しい人に売るか…とメルカリに写真を撮って掲載すると、ものの1時間もしないうちに契約成立。20年使ったペンが購入時と同じ値段…

プレミア価格です。

 


このあらましを妻や娘に話したところ、非難ごうごう…

 


『入学願書や家の契約とか…大事な書類にはいつもあのペンで書いていたじゃない!何を考えているのよ!あなたが死んで形見にするとしたら、あのペン以外に考えられない。思い出の詰まったものをあっさり売り渡すなんて、失望したわ…』

 


『お父さんといえば、あのペンだよね。勉強教えてくれるときも、書類を書いてくれたときも。小さい頃からあのペンの印象しかない…(そりゃそうだ20年ということは彼女が3歳の時からだしね)』

 


『時計はいくつか使い分けているけど、ペンは使い分けてないよね…あれを売っちゃうの?そんなにお金困ってないでしょ…』

 


最後に一目見ておきたいなどと、僕より周囲があまりにもショックを受けているので、梱包を解き、メルカリの取引はキャンセルして、使い続けることにしました。

 


確かに靴などと違って場所をとるわけでもなし。お金がないわけでもないので、さっさか売ることもないっちゃあない。僕も愛着が無いわけではない…むしろあっという間に売れて気持ちの整理を無理につけようとしてたところもあったので、売るべきじゃなかったのでしょう。

 


しかし、ペン一本でこんなに周囲がざわめくとはビックリしました。

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