『人には似合っているものってあるのよね。学校もそう。今まで見てきた生徒もそうだったから…背中を見ていると何となく分かるわ』
秋口を迎えた予備校の職員室。僕が第一志望を伝えると、先生は少し驚いた表情を見せながらも、僕にそう言ってきた。
国立理系から私立理系、果ては浪人での文系コンバート。国語だけが、偏差値70を超えるも文系として勉強してこなかった社会は50台。英語に至っては40台。当初は惨憺たる状況だった成績も、同世代と一切関わりも持たず口も利かずに勤しんだ甲斐あり、秋にもなるとようやくまともになってきた。
通常であればW大かK大を何とか目指すというところ。でも、僕はなぜか気持ちをそそられなかった。中高時代のように、こじんまりとして環境のいいキャンパスで大学生活を送りたかった。誰もが行きたがるところには行く気が失せる…という持ち前の捻くれたところもあったのだろう。
果たして、僕は秋口の予備校の職員室で、第一志望だと告げた大学に行くことになった。不思議なことに僕のために作られたかのように、試験問題も相性が良かった。世間で言うところのいい学校はもっとあるけど、僕にとっては最上の学校だった。
振り返ってみると会社も同じ。自分に似合ったところにいるのが一番良い。きっと、新しい所も今の自分には似合っているのだろう。
今も思う。予備校であれば、上位校の合格実績を求めたがるもの。でも、あの時の僕の担任の先生は、それを求めなかった。むしろ、あなたに似合ったところが良いのだと背中を押してくれた。いい先生だったな…と。