大学3年の12月下旬に突如として僕を見舞った原因不明の難病は、物事の見方や選択基準を大きく変えることになった。
大きな影響を与えたのが就業観。入院していた時期は12月から1月で、当時は就職活動のための電話帳のような情報誌が何冊も送られてきているタイミングだった。ベッドに文字通り完全に張り付けられ、天井だけを見つめる日々が少しづつ緩和されると、僕にはTVを見るか就職情報誌を見ることくらいしか主にやることがなかった。そして、穴のあくほど情報誌の隅から隅まで読み、せっせと企業にハガキを出していた。無論、就職活動ができるのかどうかは全く不確定な状態。
奇跡的に病気は完治し、日常に戻ると僕はある一つの問いを考えずにはいられなかった。それは、「自分は何のために生かされたのか?」というものだった。
それまでは、生涯年収の大きく安定した銀行や金融機関にでも行ければいいという程度にしか考えていなかった。だが、先の問いに照らすとその選択は全く適切なものとは言えなかった。安定した企業に入って、お金を稼ぐために自分が生かされたとは、とても思えなかったから。
そして出した結論は、少なくとも関心・興味の深いこと、心がワクワクして飽きないことを仕事として選んでいこう、ということだった。その後も疑問が出たら立ち止まり、やってみたいテーマが見つかったら、可能性があるのであればトライするようにした。心惹かれることがあったら後回しにしない。やらなかったことを後悔するような生き方はしない。未経験であったり、家族がいるなんてことは言い訳にしない。できるときにやらなかったら、いつ終わりが来るかわからないのだから。
昇格しても未練もなく会社を変えたし、志向のためには年収やポジションを下げる転職もした。働いてみたい人と仕事をするために、フリーランスという働き方もした。選択の上での羅針盤は、自分の心がポジティブになれるか、なれないか。
リンダ・グラットンは、著書「Life・Shift」の中で、マルチステージの人生を生きるためには、これまで若者の特徴とされていた「若さ」と「柔軟性」、「遊び」と「即興」、「未知の活動に前向きな姿勢」を持つことが重要だと述べている。その上で、自らに内在する問い「自分にとって重要なものは何か?」「大切なものはなにか?」「私はどういう人間なのか?」を見つけるための冒険(エクスプローラー)という観点で考えていくことが必要だと述べている。
彼女の本を読んでいて、この人は僕が考えていたことを明確に記していると思った。振り返ってみれば、僕のキャリアは、IT、戦略、組織人事のマルチステージになっていたりする。そして、僕の強みは「若さ」と「柔軟性」、「遊び」と「即興」、「未知の活動に前向きな姿勢」だ。でも、それは不意に訪れた自らの命の有限性に気づかせてくれた出来事がきっかけでもあり、そのことを何らかの形で誰かに伝えていくことができたらと思っている。だから、「キャリア」というテーマは僕にとってのライフワークなのでしょうね。