品川駅の新幹線プラットフォーム。京都からの帰りにフォームに降り立つと、ふいに僕の名前を呼ぶ声に引き止められた。振り返ると、懐かしい顔。前職で一緒に働いていた同僚。彼女は広島からの帰りで隣の車両に乗り合わせていたらしい。
『ちょいちょい記事とか書いているの見てますよ・・』
『結構、人も辞めてしまって。私は1人マネージャなんですよ』
心なしか浮かない表情をしているのが気になった。
ゼロから作り上げ20人を超えるまで成長した事業は、僕が離れたのと同じタイミングで、体制が大きく変わったのだ。かつては、開発、営業、納品と独立一貫体制の組織だったけれど、今や既存組織に吸収され、納品、運用だけを担う位置づけ。かつてのメンバーも一部は残っているけど、ほとんどいなくなっている。様々な意味でコンディションが変わってしまったのだ。
彼女は、僕が組織を離れる2年前に異なる部門からマネージャとしてやってきた。一方の僕は、創業から発展期までを一手に担ったプロ契約社員。組織図的には彼女が上になるのだけど、実質的には彼女が下という関係性。
サービスの本質や営業の仕方を理解してもらうために、彼女とは多くの行動をともにした。生まれ育ち、大学入学、就活での挫折、今の会社に入ってからの経験、プライベートのこと・・多くの会話をした。愛嬌力もあり、素直でいい性格だと思うのだけど、組織のKPIマネジメントに盲目的に従う習性が抜けきれておらず、自分らしさを問うキャリア事業を率いるには正直厳しいな・・という印象がいつまでも拭えなかった。でも、それが他社にキャリア自律を問う自分たちの会社の現実なんだ・・というジレンマをいつも僕は感じていた。振り返ってそれを思うと、組織を出たのはいいタイミングだったのだと思う。
『石の上にも3年、私も少したくましくなったので、またお話を聞いてくださいね』
彼女はそう言い残していった。
僕が原野から耕し、果実がなる畑にしたフィールドでも、彼女には未だに石のようなものにしか感じられない。確かに何事も結果を出すには時間がかるけど、僕は厳しい環境でも石の上にいる・・なんて思ったことなんてなかった。興味のないことは選択しないし、仮に石だったとしても、座りやすい石に削ったり、デコレーションをして座りたくなる石に変えようとする。
そうでなければ、自分の感覚や感情を麻痺させないと座っていられない。麻痺していることと逞しさは違う。それは、自分の魅力をあえて葬り去っていることと同じ。あんま、強がらないほうがいいと思うのだけど・・でもそれが彼女を支えているプライドなんだろうな。