Homare's Diary

組織人事コンサルタントの徒然日記です

正規と非正規の壁

前々職にいた15年前くらいのときのこと。僕の同僚のTさんは、庶務さんとして働いていた。頭の回転がよく、周りをよく観察して先読みした行動が取れる。負荷が高くても音を上げず、間違えていることは、年上の人でもズバッと指摘できる胆力もある。レポートの製本作業など、僕もよく世話になった。

 


彼女は華と愛嬌があったから、皆に慕われていた。僕はしなかったけど、ハードワークに疲れたスタッフが、よく彼女のデスクの横に来ては、たわいもない話をしていた。彼女の周りには人が絶えなかった。

 


組織において欠かせないピースだった彼女が年度一杯で契約終了なのだと聞いた。当時の僕は労働法に疎く、派遣社員の契約期間上限のことは、全く知らなかった。だから、彼女の契約終了を全く解せなかった。

 


なぜ、職務に慣れ親しみ、高い技能を持ち、メンバーにも慕われている人間を、契約終了にして新しい人間に変える必要があるのだろう? 確かに彼女は、仕事が出来る反面、目上の人にはちょっと生意気に写るところもあった。それが癪に障ったのだろうか・・

 


僕は、総務部長に抗議をしに行った。なぜ彼女を残さないのか、彼女を失うことは組織にとっても大きな損失であることを話した。総務部長は、済まなそうにこういった。「彼女の契約は法律で定められた上限に達したので、契約終了なのだ・・」と。

 


派遣社員においては、契約期間の上限年数が定められている。上限を超えて雇い続けたい場合は、無期雇用の正社員に転換しなくてはならない。これは、非正規社員の乱用を企業側に抑制させることが目的。でも、実際には彼女のように上限期間を前に雇い止めになってしまう。

 


彼女の送別会。僕の横に彼女が来て、いつものように愛想よく笑いながら、僕を抱き寄せる仕草をしてこう言った。

 


「意外なことするからびっくりした。聞いたよ、Y部長に話してくれたんだってね。嬉しかったよ、ありがとう・・」と。

 


僕としては、彼女がどうこうというより、理不尽なことを見過ごせなかったからなのだけど。何年かして会う機会があったときにも、その時のことをまた言われ、お礼をされた。

 


でも、なぜ雇用区分だけで働ける年数が制限されるのだろうか。同一労働同一賃金などと言うのであれば、雇用期間の上限だって定めなくていい。非正規というだけでこんな目に遭わなくちゃいけない日本の雇用法制はおかしい。