『私達は、自ら新たなキャリアを築こうという意識が低いのです。自律して多様なキャリアを築くマインドを持ってもらうために、社内の仕組みを色々と整えようとしているのです。どうしたらいいですか?』
東京の一等地にある重厚な会議室。担当者は窮状を吐露していた。この会社はこの先、支店数も減り省力化が一段と進む中で、多くの余剰人員を抱えている状態にある。ここに限らず、金融機関はバブル期に大量採用した社員の扱いに苦慮しているのが実態だ。
だが、金融機関は社員にキャリアの自律を敢えてさせない、それどころか定年まで依存させるような政策をこれまで講じてきた。
・世間より高く、年功的な報酬体系
・定年で満額の権利を手にできる退職金制度
・会社主導の出向先斡旋
・妻の専業主婦化を余儀なくさせるワークスタイル(家計を支える上で共働きのほうがつよい)
・狭く深い専門能力しか獲得できない異動配置(社外に通用しづらい)
・入社時点で安定性を欲するマインド
ちょっとやそっとで、社外に自ら行こうなんて考える人などいないのだ。ましてや、住宅ローンの残債を抱え、子供の学資がかさむ時期に、権利をみすみす放棄する奇特な人がどこにいようか。
確かに安定して高い報酬を得たいというマインドが根っこにあったにせよ、そのマインドに訴えかけ、強化するようなことを会社はしてきている。個人のマインドの問題に帰するのはいささか乱暴なのだ。
しかし、この重厚なビルに収まっている人たちは、それなりに社に居残れることが凡そ確定している。いわば大本営。そして、現場の一人一人の兵士のことなんて考えていやしない。国のために特攻で散ってくれって、そう思っていたりする。そんな存在のために自らの貴重な時間を捧げる生き方。時間を巻き戻せないのだから仕方がないのだけど。なんか寂しい。これでは、働く希望なんて誰にももてない。学生にそっぽを向かれるのも当然だ。