どうして今まで訪れようと思わなかったのだろう。
長い間、そこは近いのに記憶の中だけの場所だった。それは僕らが初めて二人だけでポートレートを撮った本牧の高台の一角。ポートレートは、寝室の戸棚の上にフレームに入れて飾ってある。
その頃、本牧はマイカル本牧がオープンしたこともあり、今のように大規模ショッピングモールというものがなかった時代において、横浜の中でも非常に活気に満ちた場所だった。
独身時代は、分割払いで手に入れたホンダビートを操って、横浜にはよく訪れていた。出会ったばかりの細君とも。
人工的な真新しさに満ちたマイカル本牧の裏手には、舗装された道もなく近所に住む人達が犬の散歩に訪れるだけのような高台があった。気分転換に二人で歩いていたときに、写真を撮ってくれないかとお願いしたのも、大きな犬を連れた人のいいおじいさんだった。
『もっと肩を抱き寄せて、ほらもっと笑って…』
その後まもなく僕らは結婚し、3人の子育てに追われていくことになる。何も無い場所をゆっくりと散歩をする時間は無くなり、子供中心の生活になった。マイカル本牧に訪れる機会も次第に減少し、時を同じくして本牧も求心力を失っていった。
22年が経ち、ひとまず子供たちも全員大学に上げることができた。原点の場所に訪れてみようと思い立ったのも、ある意味で必然だったのかもしれない。
その場所は、スッカリと綺麗な公園に生まれ変わっていた。僕らが写真を撮った2年後に公園となり、その範囲も大きく拡大していたのだ。
近い場所なのに、ここまでBefore Afterが違う場所もないかも。今度は、子供たちときてみようかな。嫌がらなければ…だけど。