モルモン教は、末日聖徒イエス・キリスト教が正式名称。その創始者やソルトレークシティに本拠を構えた歴史の経緯は、村上春樹さんが訳しているマイケル・ギルモアの「心臓を貫かれて」を見るとよく分かる。
当初は、一夫多妻制を採っていた事や戒律を破って姦淫を犯した信徒をリンチして殺してしまうようなことをしていた事もあり、米国の中でもカルトの誹りを長年まぬがれることが出来なかった。だが、そうした異質な部分は今では完全になくなっている。
実際、ユダヤ教と同じように戒律が厳しい。お酒も煙草もやらないし、カフェイン入りのコーヒーも飲まない。こうした厳しい戒律をしっかり守るまじめな人が信者には多いと思う。
斉藤由貴さんやケントギルバートさんといった芸能人が知られている以外はあまり縁がないように見えるモルモン教。
一方で、日本でもビジネス書としてベストセラーとなっている「7つの習慣」のフランクリン・コヴィー氏が、敬虔なモルモン教徒であることはあまり知られていない。コヴィー氏も大統領候補だったロムニー氏も、ソルトレークシティにあるモルモン教の指導者の名が冠されたブリガム・ヤング大学の卒業生。
コヴィー氏が書いた「七つの習慣」や「第八の習慣」を読むと、その考え方のフレームは社会科学よりも、宗教的なバックグランド抜きにしては成立しなかったであろうことが分かる。コヴィー氏の功績は、科学に毒されて人が忘れていた人の叡智ともいえる宗教を、普遍的な教えとして、完全に再構築して世に広めたところにある。
興味深いのは、ユダヤ教やモルモン教は、戒律の厳しさといった共通項と共に、ビジネスの成功者も多く輩出しているという事実。かつての大統領候補だったロムニー氏にしてもべインキャピタルなどで多くの蓄財をなしている。
財力というのが、天から与えられた才能を怠ることなく拓くことによりもらされる結果でなされるという考えに基づくと、厳しい戒律に忠実に規律正しい生き方をする人というのは、その教えが何であろうとも、自らを強い存在にできるのかもしれない。