久しぶりにセットアップスーツに袖を通した。娘が卒業式のときに着た記憶があるから、4年ぶりのことになる。今までジャケットとパンツで済ませてしまい、革靴にネクタイまで着けることはなかった。
いつにない装いで赴いたのは、大手町のとある金融機関の役員会議室。眺めも然る事ながら、国内外の著名な絵画が飾られた極めて重厚なフロア。役員の装いもトラッドできめているので、カジュアルで踏み込むのはあまりに失礼だ。
スーツをキチンと着るのは決して悪い気分じゃない。背筋が伸びる、仕草も変わる。『貴方はスーツを着ている方がいい…』若い頃はよく言われた。
渋谷のベンチャーに行くか。大手町のエスタブリッシュメントに行くか。6年前に二択を迫られたことがあった。どちらも組織・人事コンサルティングの立ち上げ責任者候補。
妻はエスタブリッシュメント推し。福利厚生も手厚く、顧客基盤も安定している。何より財閥金融系は抜群の信頼感がある。
ただ、銀行系列の自分とは異なるパラダイムにいた人たちとソリが合うのか、毎日スーツで出社するスタイルなどが僕に馴染めるとは思えなかった。決定打は能力いかんに関わらず役職定年で処遇が下がること。うまく組織が立ち上がったとしても、自動的にその役割を追われるというのもなかなか理不尽だ。
不安がる妻を説得し、ベンチャーにしたのは、今では自分らしい決断だったと思っている。そして、僕はデニムパンツとジャケットがほぼ日常になった。でもときたま年相応にセットアップスーツを着るのもこれからは悪くない、こういう感覚も大事にしなくてはと思ったのだった。