養老孟司さんの自宅は鎌倉駅から北鎌倉方面の線路沿いに歩いて20分ほどのところにある海蔵寺のさらに奥のところにあります。海蔵寺までは普通に歩いて行けるわけですが、その奥にある岩をくりぬいたトンネルをくぐり、さらに山を登った谷戸の奥の一番高いところ。その邸宅の様子はたびたびNHKでも特集されるので、目にした方も多いかと思います。まあ、世俗とはおおよそかけ離れた自然に囲まれた素敵な場所です。
この辺は基本的に代々土地は寺が所有しており、それが景観の維持にも繋がっている。いわゆる借地権の場所な訳です。
ちょうど1年半前のことでしょうか。養老先生の邸宅にほど近いところの古家が売りに出されていたのです。鎌倉好き、養老先生マニアの妻がめざとく見つけ、とにかく見てみたいというので行ってみることに。
案の定に谷戸の道はとにかく狭く、ボルボで家の横に付けるのは一苦労。特に狭い岩をくりぬいたトンネルを通り過ぎるのに難儀。軽自動車でもなければとても車など乗れたものじゃあない。帰り道では危うく脱輪一歩手前。みんな冷や汗…
でもそこは自然に囲まれた広大な日本庭園を擁し、古いながらも上質な木材を使って立てられた家。築は70年くらいは経っていそうですが、丈夫そうな家です。玄関のたたきに置かれた味のある踏み石。上質な古民家の表顔です。
住んでいた人は高齢の女性。娘さんが管理をしてたものの、母親が施設に入るためにこの家を手放すようでした。部屋には、先立った旦那さんの本棚。息子さんの面影が残る部屋。残された本を見ると歴史や東洋美術に関心が深かったインテリ人であることが伺えます。
環境は抜群ですが、年寄りが長年手入れもせずに住んできた家はかなりな手直しが必要。でも何より養老先生と猫のまるのご近所さん。とにかくこの家に住めないものか…熱くなる妻がいる。一方で僕や子供たちは引き気味…
駅から遠い。家が相当に古い。それより何より、借地権では住宅ローンが組めないので即金で買えなきゃ駄目なのです。
あの『バカの壁』が売れに売れた養老先生みたいな人が買える場所なんだぜここは。平民に手が出せるような場所じゃあないんだ。この家を手にするためには、今の家が高額に売れて即座に現金化されないとな…それでも無理だろう…銀行に代わるスポンサーいれば別だけど。
不承不承に妻は諦めることになったのですが、鎌倉というのは谷戸の奥に行くとそれはそれは素晴らしい自然が残されている…しかもそれは誰もが行ける場所じゃなくて、住んでいる人のみが行ける場所。こういうところに住んでいたら、都会は住むところじゃないと養老先生が言うのも確かに分かるわな…とつくづく思ったのでした。