人生にはときとしてそういうことが持ち上がる。説明もつかないし、筋も通らない、しかも心だけは深くかき乱されるような出来事が。そんなときは、何も考えずにやり過ごしていくしかないんじゃないかな。大きな波の下をくぐり抜ける時のように。(村上春樹 一人称単数 クリーム)
小説における『僕』において、突如として降りかかる理不尽な出来事が起こるたびに頭に湧き上がったのは、公園で会った老人が僕に問いかけた『中心がいくつもあって外周を持たない円について』考えを巡らすことだった。
でも、中心がいくつもあって外周を持たない円とは、何なんだろうか。
これはあくまでも僕の考えなのだけど、それは人の頭、もっといえば心のことを言っているのだと思う。中心はありそうで、でもその核心はいくつも存在している。外周だってぼんやりとしている。優しさも残酷さもない交ぜとなって存在している人の心。
理不尽なことが起きたとして、それが人の心が原因であることは確かだったりする。でも、その心というのはある意味で掴みようがない存在。一つの中心でハッキリとした輪郭をもつ円ではない以上、幾らそこに神経を注いだところで意味はなかったりする。
であれば、その心が引き起こした理不尽さについて思いを巡らすことは止めて、波を乗り過ごしていくことに注意を払っているべきなのである。
僕自身においても、身に起きたあまりに筋の通らない理不尽な出来事は、そう捉えて処していった方がいいのかもしれない。それは、人生にとって最良のもの≒クリームとは何の関係もないことなのだから。