バブル景気に続く80年代前半。時代を反映して明るく華やかな歌も多かった。そんな中で大江千里の歌は一際異彩を放っていた。
いくら時代が明るかろうが、未来の不透明さと確定しない不安定な自分を抱えた思春期においては、彼の内省的で哲学的な歌詞はモノトーンな心に染み込み、癒やしてくれるものだった。
彼も自分を自分で強く痛めつけるくらいに、悩みを抱えていた人だったからなんだろう。
どんなアーティストでも初期の頃の峻烈でどこまでも純粋な魂の迸りは、成功を手中としその期待に応えるサイクルの中で消えていってしまう。
大江千里においても、アルバムを重ねるごとに内省的で哲学者の散文たる歌詞は見られなくなっていく。そして大事な声もだめにしてしまう。
とはいえ彼の残した初期のサウンドはいささかも色あせることはなく。AVECというアルバムを聴いたときの新鮮な感動は今もそのまま。
パリ、エッフェル塔を最高に望めるトロカデロ広場は、ジャケット写真の撮影場所。初めてここを訪れたときはとても感慨深かったものです。