Homare's Diary

組織人事コンサルタントの徒然日記です

アンビバレンスのエピローグ

一度決めたら、思い込んだらやり抜いてしまう一途な性格。

芸能界入りを親や先生に反対されたときも、学年一位の成績を取る、名古屋圏の統一模試で5位以内、県下トップクラスの高校に合格する…という途轍もない目標を掲げ、その約束を果たしてしまう。

芸能界入りをし歌手デビューをしてからは、同じ事務所の先輩であるポスト松田聖子の筆頭候補と呼ばれるように。未来に拡がるキャリアは前途洋々。

そんな中、彼女が心を奪われたのがドラマで共演した俳優のMだった。寡黙で直向き、時折見せる快活な笑顔。成熟した実直で信頼できる大人の男。早熟で聡明な彼女から見て、理想ともいえる男性だった。

だが、運命は非情だ。彼には子供と婚約者がいる。それでも募る想いは留められない。彼女は自分の想いを綴った手紙を書いた。

その返事は彼女の心を打ち砕くものだった。彼は自分のことを子供としてしか見ていない。『お嬢さん』手紙にはそう表現されていた。

息もつけない多忙を極めるスケジュール、彼女は心のバランスと自信を完全に喪失してしまった。早熟な自分と未熟に見られる自分。生きている世界の全てが儚く、無意味なものに思えてしまう。彼女は自分という存在に耐えきれなくなった。

朦朧とする意識の中で手首を切り、ガス栓を開放した。だが、自殺は発見者によって未遂に留まった。

翌日、事務所に呼び出された。優しく労りの言葉を受けつつ、言葉は頭に入ってこない。ただ、多くの人を混乱に巻き込んでしまった自己の罪悪感が彼女の心を締め付けていく。彼女は全てを終わらせようと屋上へ駈け上がった…


彼女の自殺はセンセーショナルに報道された。飛び降りた現場に飛び散った脳漿の写真。俳優との不倫関係の果ての失恋だと伝えられた心ない報道。本当のところは不倫関係も何もなく、一途な彼女らしい思い込みとケジメだったのだろう…

30年以上ぶりにキチンと聴いた竹内まりやプロデュース曲を集めた岡田有希子コンピレーションアルバム。非凡な才を感じる透明感のある歌声。もちろん楽曲は素晴らしい。

一途で強い想いは、アンビバレントな思春期の脆さの中で彼女の存在自体を滅ぼしてしまった。とても残念で哀しいエピローグだ。