オフィスデザインを手掛ける設計事務所に勤めるM嬢。久しぶりにお会いした折に、最近手がけている幾つかの作品を見せてもらいました。
間接照明を取り入れたソリッドで上質な空間。今の最先端のオフィスは五感を刺激する空間として高級ホテルのラウンジやカフェのような3rd Placeに近いものに進化しているようです。
一方で、彼女がミラノで訪れたデザイン事務所のオフィス写真を見ると、歴史的な重厚さを持った、最新のマテリアルだけでは到底醸し出せない、質感のある木材で全てをあしらった芸術的空間に嘆息が出てしまうわけです。
オールドエスタブリッシュメントの企業が、五感を刺激するオフィススペースに入居するというのは、一つの時代の流れでそれはそれでいいことなのだろうと思います。でも、オフィスが変わっても人の働き方やマインドは変わることができているのだろうか・・というのが僕は気になるわけです。
きっと、変わっていないだろうと僕は思います。そもそも、組織構造自体が縦割りのピラミッド型ですから、カフェのようなフリーアドレスを取ったところで指揮命令の効率が悪くなるだけ。外形だけGoogleやFacebookのようなレイアウトをとっても、まず機能しないのだろうと思います。結局、組織やマネジメント、仕事の仕方やマインドといった人間系も一新しなくては、最新オフィスの機能は活かされない。イタリアのデザイン事務所は、仔細に思想を感じさせるオフィス空間も、そこに集っている人間たちだってProfession。
3rd Placeとしてのオフィスであるなら、社員同士はカフェで友達と話すように、組織の枠を超え、カジュアルに本音をぶつけ合える関係性が担保されてなくてはね。
ポルシェやフェラーリを買ってもそれを乗りこなせるドライバーの技量というものがなければ、憧れのオフィスだってタダの箱。働きがいや生産性を向上させるなら、箱物もいいけど、人間系のバージョンアップがないとダメなんじゃない・・って思うのです。
僕の過去の経験では、眺めがよくて上質な椅子が置いてあったり、パーティションで仕切られた個室がある・・いわゆる贅沢なオフィスよりも、好きな仕事や尊敬できる仲間と働いているときのほうが、オフィスはシャビーでもモチベーションは高かったです。もちろん、どちらもあれば最高ですけど。