Homare's Diary

組織人事コンサルタントの徒然日記です

命の力

37年に及ぶ「流転の海」の完結にあたってNHKニュース9が、宮本輝さんの自宅に赴き行ったインタビューを放映していました。


宮本輝さんは、25歳の時に重度のパニック障害に陥り、一人では電車にのることの出来ない体になります。彼は、当時結婚したばかりで子供を抱える身。サラリーマンにとって電車に乗って会社に通えないということは、死刑を通告されたも同然。でも、その出来事が文筆で生きていく決心をさせてくれたきっかけになります。


その、パニック障害の伏線となった出来事は、中学の時に母親が起こした自殺未遂。当時は、自分を残して死ぬ選択をした母親は、自分を見捨てたと思うことしか出来ず、それが心の傷になっていたのだといいます。


50歳になったとき、宮本さんは気づいたのだといいます。母親は、自分を見捨てて死にたいと思ったわけではなく、とにかく死ぬことしか考えられなかったんだろう・・と。すると、小説のような話ではないのだが、パニック障害がすっかりと治ってしまったのだといいます。


また、彼は父親と死別するときある会話をします。

「お前は、生まれたときから何かを成し遂げる、特別な人間だと思ってきた。ただ、お前はそういう人間ではない。それは親の欲目だった。余計な重荷を背負わせて勘弁してほしい・・」

その会話は、小説家になる前に交わされたものですが、当時の彼の心を貫く残酷な言葉です。でも、その言葉は自分が何者なのか、何かを成し遂げなければという引っ掛かりにもなっていたかもしれない。小説のように良く出来た話ではないし、実際にはそうではないけれど・・と宮本さんは言います。


過酷な時代の荒波にもまれ流転をしてきた家族。その中で、心に傷を負い闇を抱えた少年が小説家となり。人の死と心をみつめる物語を綴るようになった。そして、自身の心の傷を癒やし、多くの読者の共感を得る存在になっていく。


命の力には、外的偶然を、やがて内的必然と観ずる能力が備わっている(小林秀雄


彼のインタビューを聞いていて思い浮かんだのは、小林秀雄の一文でした。