バランスというのが極めて悪い人間である。
分かりやすいのが勉学だった。現代文や歴史、地理が偏差値70超えだったが、古文、漢文は50以下。統計解析は60位だったが、微分積分、代数幾何は40以下。地学は60位だが、化学は40以下。英語は50に届かないくらい・・文系に行くにしても、理系にしてもどっちつかずの凸凹の成績。
当然、推薦なんてもらえるわけもなく、理系選択で工学部全滅を余儀なくされた。文転したところで、偏差が75近くある現代文で稼いで、英語や古文の穴を埋めるという具合。
大学に入っても傾向は同じで、のめり込んだ科目は優を取ったが、それ以外はギリギリの成績。ゼミは相当にのめり込んでやっていたので、同級生は僕のことがずいぶん成績がいい人だと勘違いしているようだったけど、優の数を伝えると、『なぁんだ・・』という反応を一様に示すのだった。興味の持てないものには、エネルギーを注げないのである。義務感や切迫感で行動するタイプでもないし。
そんな僕からみて同じ語学を専攻していたTさんは、異星の人だった。彼女はきれいなノートを取ると有名だった。試験前に、彼女と同じ部活だったM君が何とか彼女にノートを借りようと何度も試みるものの、いつも丁寧に断られるのだった。そして3年になり、彼女と僕は同じゼミ生となった。彼女がすべての科目で優を取り続けている・・と仲間うちでは度々話題に上がった。
僕のようないい加減な人でもそのような才女と同じゼミというのは、ちょっと嬉しいわけで。僕は、ゼミの指導教授が担当する必修科目では出現頻度のレアな優を取っていたというのが、ささやかな誇りだった。
そんな僕が一度、彼女に相談を持ちかけられたことがある。それは、就職活動のときだった。経営学がライフワークだと思った僕は、経営コンサルティング会社を志望し、早々と内定を得て4年の5月には活動を終了していた。そして、卒業論文の仕上げに取り掛かろうと意気込んでいた6月頃のことだったと思う。
「自分のどこに問題があるのか。アドバイスがほしい・・」
ゼミが終わった時間に彼女が僕に歩み寄ってき、相談を持ち出された。成績優秀な彼女は、志望する企業からは直ぐに内定が出るだろう・・というのが周囲の共通した見方だった。だが、実際はなかなか内定を得ることができず、苦戦をしているようだった。僕は、彼女に志望動機としてどのような事をアピールし、話しているのか・・と聞いた。問題は明らかだった。
僕は、彼女にこう伝えた。相手の特徴や優れた点をいくら述べたって駄目。それは、相手が知っている情報なのだから。それよりも、自分がこれまで取り組んできたことや興味、関心と相手の会社の特徴や魅力との接合点を物語にして話したほうがいい。面接で伝えるべきは、出会いと一緒になることの必然性なのだから・・
彼女はよく分かったと頷いて帰っていった。しばらくして彼女は非常に難関の企業に内定を得た。そして、彼女からは丁寧なお礼の手紙をもらった。そこには、僕の卒論内容をとても楽しみにしている・・と結ばれていた。もしかしたら、その時僕は彼女をデートに誘えば良かったのかもしれない。
昨晩、同僚と旧知のクライアントを交えた飲み会の中で、同僚のK嬢が大学を首席で卒業し、授業料免除の優秀な成績だったのだと聞いた。なんでも、勉強が好きで、大学も推薦だったのだという。
同じ首席でも、Tさんとは全く違う。K嬢は、生真面目さで優を並べるタイプではなく、好きになる力をエンジンにして結果として成績がいいというタイプ。結果こそ違うが、僕にタイプが似ている。実際に、苦手な科目を聞いてみると国語と歴史ということらしい。ま、確かに納得・・僕の得手が苦手というところも面白い。同じ首席と言ってもずいぶんキャラが違う。
K嬢の話を聞きながら、ふっと学生時代のことが頭に過った。