Homare's Diary

組織人事コンサルタントの徒然日記です

エクスペリエンスの価値

世の中には様々なタイプのコンサルティングがある。僕が行っているコンサルティングは、問題を定義し、解決に向けた道筋をつけてあげることが主な仕事。特定のシステムやツールという分かりやすいモノを売ることで対価を得るスタイルじゃなかったりする。


一方で、漠然とした問題を解きほぐし、解決に向けた端緒をつけることに最も付加価値があるのに、顧客はそこに対価を払うことを認めない場合が多い。よくあるのは、企画書において問題解決の論点を示し、解決策を提示したとする。すると、スッキリとした顔をだけして後は自分たちでやりますから・・といって発注を行わないというケース。何年も放置していた問題の解き方を示しているのに、アイデアタダ取りって形で、こちらとしては忸怩たる気分である。


とはいえ、何年もコンサルティングの一線で営業、提案活動をしていればそういう顧客というのは、かなりの確率で存在していることが分かっている。僕としても、顧客の情報や恥部をすべて聞いていくことは、個人的な財産になるから、仮に受注できなかったとしても気持ちを切り替えて臨むことにしている。そういう誠意のない顧客は、仮に付き合ったとしても揉めることになることも分かるし。


先日、メンバーの子が僕のところに『とにかく話を聞いてください』と悲壮な顔をしてやってきた。なんでも、タスクが1/4も進んでいたところで役員の命で契約は行えないことになりましたと告げられたのだという。


先方の都合もあって急いでいるから、契約は締結前提で進めていたのにあまりの仕打ちである。プロジェクトを進めていくために彼女はかなりの労力を割いたし、僕も彼女を側面支援していた。どのくらいの覚悟で案件に臨んでいたかも分かっている。1人クライアントに赴き、理不尽な決定を聞いて帰路についた心情は思うに余る。


団欒スペースで話を聞いていたのだけど、うちに思いが込み上げて彼女はボロボロと泣き出してしまった。気丈な彼女は、普段自分の弱みを見せることなんてしない。ましてや、人前で泣くことなんて。


彼女の気持ちを吐き出させたところで、僕は彼女に話した。

 

・営業テクニック的に不履行を防ぐのだったら、上の立場の人間をセットして握手をさせるという演出をしても良かった。残念ながら、君はまだ若い女性だし50代の男性から見たら舐めてみられる可能性が拭えない。世の中、まだまだ男尊女卑だったりするから。


・仮にそういう顧客と付き合い続けたところで、相手は投下工数を大きく超える成果コミットを要求することも多分に考えられた。プロジェクトが始まったところで、値引きを要求してきた時点で、きな臭い。そうなると、組織としては大きな損失。今は人手が足りない。だから、早いうちに白黒がはっきりついて良かった。


・顧客の情報と課題を全て把握した上で、自分の頭を使って解決法を考えたことは、財産。コンサルタントは、エクスペリエンスが最大の資産。僕なんて、そんなことしょっちゅう。初めての経験だとしたら、運がいいだけ。僕らの仕事はそういう目に遭うケースは珍しいことじゃない・・新しい案件もあるし、気持ち切り替えて次にいこうよ。


うちに彼女の涙も止まった。


『今日は、エステに行って気持ちを切り替えて早く寝ることにします!!ちょっとだけって思ってたのに、1時間以上も話を聞いてくれてありがとうございました』 そういって彼女は帰っていった。


翌朝の顔を見ると、もうすっかり落ち着いたいつもの表情に戻っていた。性善説で人を信じて一生懸命に物事に当たるのが、彼女の最大の持ち味だ。悪いヤツに出くわして、人を真っ直ぐに信じる気持ちだけは失ってほしくないなと思うのです。