相対して男性は、人の感情を理解する能力が女性より劣位にある。女性が子供を産み、育てていく中心的な存在であり、言葉を発せぬ幼児から無言のメッセージを感じ、ケアするスキルが先天的に与えられていると考えれば、ごく自然なことなのだろう。
実際、男性の対人感受性の低さは、子供を育ててみるとはっきりと分かる。親の顔色から感情を汲み取って声をかけられる女の子。そもそも表情の変化にすら気が付かない男の子。
先日、飲み会でワーキングママの方がぽつりとこう漏らしていた。
『お迎えの時間に遅刻しちゃいけないなんて、そんなの分かっているのよ。でも、時間どおりに行くことが、時にどれだけ大変だったりするか・・』
『そんな時、杓子定規に規則を振りかざす介護士さんもいる。一方で、相手の表情を見て”今日は大変でしたね”と言ってくれる介護士さんもいる。その一言にどれだけ救われるか・・』
『同じことは、自分たちの組織にだって言えるのよね・・』
情景を思い浮かべながら、時に涙を薄っすらと浮かべ感極まって話している。彼女は、会社のコーポレート部門の担当として、社員意識の向上に向けて孤軍奮闘をしていた。人の感情が想像できないリーダーが根源であることは彼女は知っている。誰もが触れたがらない暗部に切り込んでいく上で、彼女の信念のベースを感じさせてくれるエピソードだ。
彼女の向いでは、若手の男性スタッフが話を聞いていた。彼は、もともと酔うとあんまり酒癖が良くないのだが、彼女の話が終わると「社会学的に言うとその状況はですね・・」などとしたり顔で自説を講じていた。その彼の論に頷くもうひとりの若手男性スタッフ。まったくやれやれである。
彼女が家に帰るために席を中座した後、僕は彼に聞いてみた。
「あのさ、S君は彼女の表情のなかに何を見た?どんな気持ちで話していたと思う?」
『え?分かりません。何だったのでしょう。』
「彼女は瞳に薄っすらと涙を浮かべてたじゃないか。彼女は、胸に秘めた大事にしていることを、実体験に重ねて感極まりながら話していたのじゃないか。それが分からないのか?」
「O君、君はどうだ。それが分かったか?」
『僕も全く分かりませんでした』
「まったく。それが分からないのに、人の心を扱う組織・人事コンサルタントなんて出来やしないよ。頭でっかちのただの痛いやつだ。そんなんじゃ、好きな女性にだってそっぽを向かれるよ・・」
とはいえ、僕だって昔からそんな人の気持ちが分かったわけじゃない。Yさんという女性に僕は言われた。「石橋さんは、そういう能力を後天的に身につけた人なのではないですか?」と。そう、あたりである。僕も同じように、昔ある人に怒られ諭された。そして、好きで一緒になった人のキモチを何度踏みにじってきたのだろう。
人の痛みがわかる大人でなければ、何の価値があるのか
いつしか、人の心が少し分かるようになってきた。でも、それは僕という人間に期待をし、耳に痛いことを包み隠さず伝えてくれた人たちのおかげなんだ。にしても、男というのは自分も含め、なんて手がかかるし、愚かな存在なんだろうね。