Homare's Diary

組織人事コンサルタントの徒然日記です

命の力と内的必然

命の力には、外的偶然をやがて内的必然と観ずる能力が備わっているものだ。この思想は宗教的である。だが、空想的ではない。 (小林秀雄 モオツァルト)

 

宮本輝さんは25歳から、極度の不安発作に度々見舞われるようになっていた。今で言う『パニック障害』の罹患である。突如として耳鳴りと目眩が起こり、全身から血の気が引き、脂汗にまみれる。その中で、言いようもない死への恐怖が心のなかにもたげてくる。症状は、悪化の一途を辿り、会社に赴くことは死の恐怖を覚悟するというまでになってしまう。


そうした最中、得意先に行った折に大粒の雨が降ってきたため、書店で雨宿りをせざるを得なくなる。その時に手に取った雑誌が純文学の文芸誌だった。自分だったら、ここに掲載されている小説の100倍は面白いものが書ける・・その時に、小説家になることを決意したのだという。小説家なら、不安障害の発作を気にして電車に乗る必要もない、人混みを歩く必要もない。それ以外に、妻と子供を養う手段はないのだ・・と。


これを機に、氏が抱えていた「生と死」への思考の問題は、自然や風景、そして人間そのものの真の美しさを小説に描いていくことに転換していく。結果としてパニック障害は掛け替えのない宝物になったのだと。


自分だけに訪れた大きな問題や障害は、自分しか持ち得ない才能や機会の発露となる『内的必然』だったりする。加えて思うのは、自分の身の回りにいる人々というのも、また『内的必然』だったりするということ。


命の力に感謝しつつ。今年もよろしくお願いいたします。