Homare's Diary

組織人事コンサルタントの徒然日記です

素顔に触れる眼

一年越しで再雇用制度の設計アドバイザリーを行ってきたB社。多様な選択肢と職務に合わせた処遇にしたのが大きな特徴。僕が描いた青図に忠実に合わせ制度を作り込んでくれた。

 


新制度が導入されると、社員は自律的に60歳以降の選択肢を見据え、事前から考え準備をしていくことが求められる。

 


せっかく制度を作り込んだのだから、従来の研修は止め、僕に研修設計と講師もお願いしたいというのが先方の希望だった。今日は、工場に勤める50代向けのキャリア研修。普段は現場作業に携わっている人たち。研修機会なんてない。十年以上ぶりの研修という人たちばかり。

 


事前課題のライフラインチャートは、入社以来のキャリアを振り返ってみると変化に乏しく、人に話すような転機はない…と途方に呉れる受講者が続出。現業系の方においては、仕事の変化が基本的に少ないため、よく起きる現象。このまま、自己理解のセッションを行うと失敗する。

 


だが、自分の特徴を言語化し描き出していくには、広い視点で自身の転機を開示し、話してもらう必要がある。キャリア曲線の相互インタビューでは、最初のインタビュイーの自己開示が全体の雰囲気を決める。講師がインタビューアーとして介在していかないと厳しそう…

 


人数も少ないこともあり、参加者に寄り添って話を引き出すことにする。人の話を聞くことは好きなのでその方がいいのだが…

 


最初に印象深い方に関わった。Kさんという55歳の女性。彼女は公私にわたって過去に起きた出来事を赤裸々に書き出していた。インタビューで転機を尋ねる。彼女は俯きながら離婚に伴う部署異動の経験を話し出した。公私ともにボロボロの日々。でもその異動した部署でたまたま携わることになった仕事が、転職後の今のキャリアにつながることになったのだという。

 


何も自分には特筆すべき変化がないと言っていたメンバーの顔色がみるみる変わる。『貴方もそうだったんだ…分かるよ。私もなんだ。私も離婚して再婚したんだ。』「俺もだよ…でも課題にはかけなかった…」

 


そのグループは、お互いに今まで誰にも話したことがなかった過去の辛かった経験を真剣に語り合っていた。開示の返報性が短い時間で起こり、グループダイナミックスが生まれたのだ。

 


別のグループのTさんも自分には特筆すべき転機がないと口にした一人。彼女のシートを見せてもらった。彼女は、若くして結婚し、年子を含め3人の子供がいることが分かる。

 


『一番の転機は、育児と仕事の両立だったのでは…さっき、お話になりましたか?』

 


「本当を言えばそうだったんです。何年もの間すごく大変だった。自分ではそれしかないと思っていたけど、本当につらかった。当時は、男性が家事を手伝うなんて一般的ではなかったし。でも、いろいろな人に助けてもらったんです」

 


彼女は、とても忍耐強く責任感のある芯の強い女性。それが認められて、新製品の生産ラインにも関われている。この歳で孫も二人もいる。転機もない、強みもない…そんな人では全くないのだ。フィードバックをすると、彼女の顔色が明るくなる。

 


終了後に、最初に関わったグループの男性はこう感想を述べていた。

 


「自分は、人に自分の話をしたこともないし、苦手なのだが、こんな短い時間で自分のことを話しわかり合えることに驚いた…」

 


キャリア研修は、一期一会で人の人生の機微に触れる貴重な機会。僕も山あり谷ありの人生を歩んできたけど、その経験があったから人の素顔に少しは触れられる眼が養えたのかもしれない…